先日の全国のRA協議会において、大学執行部のセクションがありましたが、そこで徳島大学長の野地が「大学支援機構」について紹介を行いました。それに対して、大阪大学の西尾総長がコメントされました。それは、”大学支援機構が計画している内容は、日本学術会議が2017年6月に提言した「国立大学の教育研究改革と国の支援ー学術信仰の基盤形成の観点からーの中で、「情報通信技術(ICT)を利用した国立大学の連携強化」に記載されている内容と類似している” とのことでした。下記に提言の中で、ICTに関係する部分のみを、少し長くなりますが、引用させていただきます。
これまで蓄積してきた国立大学としての資産を有効に活用し、困難な国家財政のもと で、国立大学が国や社会に将来にわたり貢献するための有力な手段が、全国 86 の国立大 学全体をネットワークとして強固に結びつけることである。国立大学は分野や地域との 固有の結びつきを持ち、この多様性や地域性、伝統とのつながり失うことは、大学とし て蓄積してきた資産価値を失うことにつながる。他方、各大学がそれぞれの個性を保ち つつ、閉じた個別性にとどまることなく、国立大学ネットワークとして連携協力体制を 構築することにより、各大学の資産価値は高まり、社会への貢献も一層大きいものにな る。教育研究基盤の弱体化に対し、国立大学ネットワークの構築により教育研究資源や教 育研究支援体制の国立大学間の共有化を実現できる。例えば、小規模な大学では、知的 財産の確保・維持・活用や共同研究契約、企業との橋渡し等幅広い産学連携業務を担え る人材の確保は非常に難しい。国立大学間連携による人的資源や種々のノウハウの共有、 ベンチャー育成等も含めた TLO 機能の共有等の制度とそれを支援するシステムの整備に より、国立大学全体の活性化を図るための方策が望まれる。また、国際化においても留 学生や外国人研究者の受け入れ、海外への留学(短期・長期)や派遣の支援、海外オフ ィスの維持等、基本的な運営を国立大学間で共有化することにより、大きなコストをか けずに国立大学をより国際化できると考えられる。国際協力機構(JICA)等とも連携して 外交政策と連動した対外支援も可能になる。さらに、地域貢献についても社会や地域の 活性化や問題解決に対する貢献においても、国立大学ネットワークは有効である。地域 特有の問題解決や自治体からの人事交流等も含めて大学間のアライアンスの中で整理 することにより、効率的かつ透明度の高い国立大学と地域の連携事業が可能になる[2]。
国立大学ネットワークを実現するための方策として、ICT の活用による資源の共有化 と分散化及び組織の連携とフラット化が有効である。第5期科学技術基本計画では、ICT を最大限に活用し、サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実世界)とを融合 させる「Society 5.0」の実現を推進し、世界に先駆けて「超スマート社会」を実現して いくことが求められている。残念ながら、国立大学においては、世界的に見てもまた産 業界と比較しても、ICT を利用した組織や機能の効率化が遅れていることは否めない。 しかし、ここに、我が国の大学改革における隠れた未利用資産が存在するとも言える。 ICT を活用して、新しい国立大学ネットワークを構築することは、国や社会のあり方を 根本から見直す大きな国家的プロジェクトにもなり得る。
全国の 86 国立大学法人は、同一の国立大学法人法や会計基準で経営されており、その運営に必要な基盤システム(人事給与システム、財務会計システム、法人法務管理、 IR (Institutional Research) 機能、URA (University Research Administrator) 機能、 キャンパスの維持管理等)を、各大学が個別に開発・保守・運用する必然性は存在し ない。これらのシステムをクラウド化により大学間で共有することで、コスト面でも 運用面でも以下のような大きなメリットが生まれる。
将来的には公立や私立の大学でも協力・連携できる部分を明確化することで、大学 業務システムの共同運用を行える体制を構築し、我が国の高等教育の経営の効率化と 安全性や安定性の確保を行うことが望ましい。業務システムの共有化や標準化は、組 織運営上のコンプライアンスの観点からも透明性の向上に寄与し、教職員の大学間で の異動に伴う大学固有のシステムに慣れるための労力の削減にもつながる。本格的な 大学業務システムの改善のための工程表を作り、国立大学が連携して思い切った初期 投資を行うことで、長期的に見れば大幅な財政支出の削減が可能となる。電子ジャー ナルや機関レポジトリのような学術情報の流通システムコスト削減のための大学間 の連携も含めて解決の道を探るべきである。
日本学術会議では、大学教育の分野別質保証委員会において、各分野の教育課程編 成上の参照基準の策定を進めている。これにより、各大学で教育するカリキュラムの ある程度の共通性が担保されることになる。この参照基準を基にして国立大学がアラ イアンスを組み、ICT 技術を駆使することにより、教育資源の共有化により教育の高 品質化と共通化、さらにはコスト削減が可能になる。大規模授業を効率化することに よって生じた余力を、少人数・双方向の授業に振り向けて、高品質化を図ることがで きる。とりわけ、既に一部の国立大学間で取り組みが始まっている ICT を利用したカ リキュラムの共通化や共通講義システムを利用することにより、教員の教育負担の軽 減と授業の高品質化の両立が可能となる。学習支援システムや成績管理システム等も、大学間共同契約等で我が国の実情にあ った教育用パッケージ開発を複数大学が協力して行うことで、各大学の支出を抑制し つつ学生や教職員への大幅なサービス改善が可能となる。また、e-Learning や MOOC等の新しい教育技術や教育ビッグデータを活用したデータに基づく科学的教育等も大 学間の連携により、素早い導入と効率良い運用が期待される分野である。将来のため の投資として初等中等教育への展開まで見据えて、国の基本政策として議論する必要 がある重要な分野である。
国立大学の喫緊の課題となっている教員の時間劣化については、ICT を用いた教育 の効率化や経営の効率化が進むことにより、教員が研究に向き合う時間が増えること が期待される。新しい研究支援体制の構築が求められている中で、計算・記憶資源は、あらゆる学 問分野で必要なリソースであるが、個々の研究プロジェクトで、計算機システムを購 入して維持する時代は終わっており、クラウド化により、計算や記憶をサービスとし て購入する方が、スペース、人件費も含む維持管理経費、セキュリティ面からも圧倒 的に有利である。オープンサイエンスやオープンデータに対応する大学の社会的責任 を果たす上からも、大学間連携によるクラウド化やシステムの共有化が重要な鍵とな る。また、研究の高度化にともなって高額機器購入費及び維持費が増大し、小さな研 究単位では、それらの資源を所有・保守できなくなっている。共同利用研究所の整備 と機器の共同利用の促進を目指してきているが、ICT を活用して国立大学間で機器や 設備を効率良く共有する大学間連携システムの構築を進めるべきである。
以上のような ICT を用いた経営、教育、研究の支援システムの共有化による国立大学 の連携は、将来の初等中等教育の ICT 化による効率化に対しても大きな指針を与える。 さらには、同様の問題を抱える地方自治体等の業務改善にも大きな方向性を示すことと なり、我が国の社会構造改革を先導するという大学の役割にも合致する。単に、高等教 育に対する支援としてだけ捉えるのではなく、初等中等教育から地方創生まで、幅広い 社会改革の先鞭をつけることが期待される。既に、大学 ICT 推進協議会(AXIES)や日本オ ープンオンライン教育推進協議会(JMOOC)のように、国公私立大学の連携の基盤も充実し てきており、国立大学ネットワークを構築し、産業界とも連携することで、新しい我が 国の教育研究基盤の再構築を国立大学から始めることが、強く望まれる。
以上のように、まさに大学支援機構を設立したコンセプトそのものが、実に明確に記載されていると言っても過言ではないでしょう。この方法に改革を確実に進め、実現することが、日本の大学が発展することになると考えます。問題はそれをどのように実現するか?ですが、まずは、大学支援機構の賛助会員になっていただき、アカデミック・プラットホームの構築にご協力いただくことではないかと思いっています。